家から1時間弱で行ける所に、日本刀専門の美術館、「備前長船刀剣博物館」があることは、僕にとって幸運でした。
はっきりいって、ガラス越しに観る日本刀にはちんぷんかんぷんだったのですが、刀を観るよりも職方とコミュニケーションをとれるようになった事が重要でした。
中でも当時研ぎ処に勤めていらしたFさんが、僕のエヴァンジェリストになりました。
彼は刀の世界の裏表を赤裸々に語ってくれました。じつは刀剣の世界には、恐ろしい住人がウロウロと生息する闇の側面もあるのです。
僕が「そんなに言われたら、刀が嫌いになってしまいそう」と言うと、「これくらいで嫌いになるなら、刀なんて手を出さない方がいい」と。
文章にすると過激ですが、彼の言葉は、本当の刀数寄者に対する敬意と、刀への愛が感じられるものでした。
そして「刀を買うべき店は、日本に三軒しかない。もし刀を買うなら、僕がついていってあげるから、声をかけてくれたらいいよ」とも言ってくれました。後日、彼の紹介で入った刀屋さんで購入した初めての刀は、今でも愛刀として持っています。高いものではありませんが(刀屋さんには「友達価格」と言われました)、抜くたびにいろいろな発見があって、6年所持した今も、全く飽きません。
今でも、僕がダークサイドに堕ちないよう、きちんと守ってくださっているFさん。最近博物館を辞められてしまわれて、あまりお会いできていないのですが、先日別荘(!?)にお伺いした時には、お世話になりました。山陽道が復旧しましたので、またお邪魔します。
彼に何度も言われたことがあります。
「古物の世界は不思議だ。最初に手に入れた物のスジが悪いと、絶対上に行けない。そうなったら、すぐ他の道に移らないといけない」
サラリーマンが手を出せる刀など、たかが知れております。
しかし、きちんと導いてもらえれば、値は安くても筋の良いものは手に入ります。
必要なのは、素晴らしい人との繋がりです。そしてそういう人に出会うために、自分を高めることだと思っています。逆に言えば、そういう人と出逢っていないうちに、刀を購入することは控えた方が良いということです。
僕も、姫路お刀同好会に入られる方にとって、そういう人間になりたいと思っています。
さてさて、その後も、素晴らしい人たちとの出会いが続きます。
その話は、次回申し上げましょう。
<続く>
令和五年十二月二十六日 廣瀬智史 かく
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